ホルスタイン種に比べてジャージー種は、乳量では一歩譲りますが、脂肪分が高く、たんぱく質やミネラル、ビタミンなどの含量ではすぐれています。邦太郎はいつも、「草と牛は一体であり、草を乳に換えることが神津牧場の経営の基本だ」と話し、牛たちに自然のなかでたっぷりと草を食べさせるとともに、運動も十分にさせていました。
こんなとびきり健康な牛たちからしぼり出された牛乳は、濃厚で香りが高く、バターやチーズなどの乳製品にもコクが出てくるのです。また、これらの乳製品の加工・販売をすべて自分たちの手で行う一貫経営を創業時からこれまで変わらずに実践してきたのも、神津牧場の大きな特徴といえるでしょう。
一方、戦後の日本においては経済の急速な成長にともなって、畜産は土を離れて集約的・工場的なものへと形を変え、飼料も海外からの輸入に大きく依存するようになりました。しかし近年、飼料、肥料、燃料などの高騰などもあって、日本の畜産の危うさがクローズアップされるようになり、パラダイムの転換に迫られています。
神津牧場はさまざまな紆余曲折はあったものの、120年以上にわたって山のなかでコツコツと自分のペースを守りながら、大地にしっかりと根を張った資源循環型の畜産を行ってきました。飼料も自らで種を播き育て上げた牧草ですし、肥料も堆肥づくりを自ら行って有機畜産を目指しています。また、キャンプファイアーや五右衛門風呂を沸かすくらいの薪であれば、敷地内の雑木林からいくらでも調達することができます。
日本の畜産が見直されようとしているいま、時代遅れのように見られていた私たち神津牧場が、気がついたら実は時代の先頭グループを走っていた、といえるかもしれません。